万博は、閉幕したあとに何を残すのか
万博は、開催期間中に世界の国々や企業、来場者が集まり、未来の技術や文化を紹介する国際イベントです。しかし、開催地にとっては閉会式がゴールではありません。会場として整備した土地、建物、交通インフラをその後どう活用し、地域の暮らしや経済に結びつけるのか。いわゆる「万博レガシー」は、閉幕後にこそ本格的に問われます。
大阪・関西万博の会場を歩きながら、「この場所が会期後も世界の文化や人が集まる場所として続いたらいいのに」と思った方もいるのではないでしょうか。ドバイには万博開催前からGlobal Villageがあり、Expo 2020 Dubaiの会場跡地はExpo City Dubaiとして活用されています。さらにExpo 2030 Riyadhは、万博会場そのものを閉幕後に「Global Village」へ発展させる構想を掲げています。
ただし、三つの名前や構想を並べるときには注意が必要です。ドバイのGlobal VillageとExpo City Dubaiは別の施設です。そして、リヤドが使う「Global Village」は、ドバイにある季節型の観光施設と同じものを指しているわけではありません。
この記事では、Global Villageという言葉の意味を整理しながら、ドバイ、大阪・夢洲、リヤドの「万博後」を、会場の成り立ちから順につないで見ていきます。
まず整理:Global Villageは万博の会場跡地を指す言葉ではない
「Global Village(グローバルビレッジ)」は、直訳すると「世界の村」です。国や地域の文化を一つの場所で体験できる施設や、世界の人々が交流する場を表す言葉として使われます。ただし、万博会場の跡地活用に共通する正式な制度名ではありません。
ドバイでは、1997年に始まった季節型の文化・エンターテインメント施設の名称です。一方、リヤドでは、万博会場を閉幕後に住宅、文化、娯楽、ビジネス機能を持つ恒久的な都市拠点へ転換する計画の中で「Global Village」という名称が使われています。
同じ名前でも、片方は万博とは別に長年運営されてきた観光施設、もう片方は万博後の都市開発構想です。この違いを踏まえると、ドバイとリヤドの関係が見やすくなります。
ドバイ:先にGlobal Villageがあり、万博跡地はExpo Cityになった
1997年に始まった「世界を楽しむ」場所
ドバイのGlobal Villageは、公式サイトによると1997年に始まりました。国や地域ごとの文化を紹介するパビリオンを巡り、料理や買い物、ステージ公演、アトラクションなどを楽しむ施設です。現在は90を超える文化を一つの場所で体験できる、家族連れにも人気の季節型観光スポットとして紹介されています。
Global Villageの魅力は、各国の文化を「見る」だけでなく、食べる、買う、ショーを楽しむといったレジャー体験と組み合わせていることです。万博のように半年間の国際博覧会として運営されるものではなく、毎シーズン来場者を迎える常設の観光事業です。
Expo 2020 Dubaiは別の場所で開催
Expo 2020 Dubaiは、当初の開催予定から新型コロナウイルス感染症の影響で延期され、2021年10月から2022年3月まで開催されました。テーマは「Connecting Minds, Creating the Future(心をつなぎ、未来を創る)」。会場には世界各国のパビリオンやテーマ展示、イベント施設が設けられました。
この会場は、ドバイのGlobal Villageとは別の場所です。つまり、ドバイには「万博前から続くGlobal Village」と、「万博開催のために整備されたExpo 2020会場」が並存していました。
万博会場はExpo City Dubaiへ
Expo 2020 Dubaiの閉幕後、会場は「Expo City Dubai」として再整備されました。Expo 2020の公式レガシー紹介によると、会場インフラの約80%を保持し、閉幕から6か月後に再オープンしています。
会場をそのまま保存するのでも、すべてを解体するのでもなく、使えるインフラや建物を都市の資産として引き継ぐ方式です。万博の象徴的な広場や施設、交通基盤の一部を残しながら、居住、ビジネス、展示会、観光、文化などの機能を持つエリアへ移行しています。万博会期中の来場者向け空間を、会期後は住民や企業、イベント主催者にも使われる場所へ変えていく考え方です。
したがって、ドバイの「万博後」は次の二つに分けて考えると分かりやすくなります。
● Global Village: 1997年に始まった、各国文化・食・買い物・エンターテインメントを楽しむ季節型の観光施設
● Expo City Dubai: Expo 2020 Dubaiの会場を再利用し、万博のインフラや象徴的な空間を引き継いだ都市開発エリア
ドバイは、万博跡地をGlobal Villageにしたのではありません。万博前からあったGlobal Villageとは別に、万博跡地をExpo Cityとして育てています。ここがリヤドとの大きな違いです。
大阪・関西万博:夢洲を「記憶の場所」と「次の開発」へ
万博会場全体を保存する計画ではない
2025年大阪・関西万博の会場となった夢洲は、人工島の一部に整備されました。閉幕後の夢洲では、万博会場として使われた区域を含む約50ヘクタールの第2期区域について、次のまちづくりが進められています。
大阪府・大阪市は2026年6月、「夢洲第2期区域マスタープランVer.3.0」を策定しました。掲げられているのは、万博の理念を継承し、国際観光拠点の形成を通じて未来社会を実現するまちづくりです。
ただし、これは会場全体を万博開催時の姿で保存する計画ではありません。記念として残す場所、別の場所で再利用する建物や展示物、民間事業者による開発区域などを分けながら、夢洲を次の都市機能へつなげていく方針です。
大屋根リングは一部を記念公園へ
大阪・関西万博の象徴となった大屋根リングについては、北東部の約200メートルを原型に近い形で残す方針が示されています。その周辺を記念公園として整備し、万博の情報発信や交流促進を担う記念館の設置も検討されています。
これは、リング全周を保存して万博会場を丸ごと博物館化する方法ではありません。象徴的な一部を記憶の拠点として残し、万博を知らない世代にも開催の意義を伝えながら、周辺は新たな開発に活用していく考え方です。
パビリオンや展示物についても、すべてを夢洲に残すのではなく、移設や再利用を通じて各地に引き継ぐ取り組みが進んでいます。万博のレガシーを一か所に集約するより、建物や展示、理念をそれぞれの場所へ広げていく形です。
夢洲の具体像はこれから事業者選定へ
大阪市は2026年7月、夢洲第2期区域の開発事業者募集を始めました。府市のマスタープランを前提に、まず計画提案を審査し、その後に価格提案を審査する二段階方式です。公表されているスケジュールでは、計画提案審査と価格提案審査は2027年2月に予定されています。
そのため、夢洲については、万博後のまちづくりの大枠は決まりつつあるものの、個々の施設や街並みがすべて確定した段階ではありません。これから選ばれる事業者の提案や、公園・記念館の計画によって、来場者が実際に訪れる場所の姿が具体化していきます。
「日本も万博後にGlobal Villageをつくれたら」
夢洲にも、世界の人々が集った万博の記憶や理念を引き継ぐ計画はあります。それでも、リヤドのように会場全体を「Global Village」と位置づけ、住宅、文化、娯楽、ビジネスを一体的に備える恒久的な目的地として示す構想とは、見せ方が異なります。
「日本も会場をグローバルビレッジにできたらよかったのに」という感想には、万博で体験した国際交流を一過性にしたくない、という思いが重なっているのだと思います。夢洲では、会場全体を国際文化パークとして残す計画は示されていません。一方で、記念公園やリングの一部保存、展示物の移設、国際観光拠点としての開発を通して、万博の記憶を別の形で残そうとしています。
大切なのは、「会場を残すか、壊すか」という二択だけで考えないことです。残した建物を誰が使うのか、年間を通して人を呼べるのか、運営費を支えられるのか、周辺のまちとどうつなぐのか。こうした課題に答えて初めて、万博会場は持続するレガシーになります。
リヤド:会場そのものをGlobal Villageへ転換する計画
600万平方メートルの会場に、万博後の役割も組み込む
Expo 2030 Riyadhは、2030年10月1日から2031年3月31日まで開催予定です。会場は約600万平方メートルにおよび、公式サイトによると、約200万平方メートルが入場区域、約400万平方メートルが物流・サービス区域として計画されています。
そして会期後、会場を住宅、文化施設、娯楽施設、ビジネス地区などを備えた恒久的な都市拠点「Global Village」へ転換する構想が示されています。万博公式サイトは、将来的に15万人の居住者と1日6万人の来訪者を支える計画を紹介しています。
ドバイのGlobal Villageが「万博前から続く季節型の観光施設」であるのに対し、リヤドのGlobal Villageは「万博会場を引き継ぐ都市開発構想」です。名称は同じでも、前者は来場者が訪れて楽しむ施設、後者は人々が住み、働き、文化や娯楽を楽しむ恒久的な都市を目指しています。
テーマの五つの柱を、会場と未来へつなぐ
リヤド万博のテーマは「Foresight for Tomorrow(明日のための先見)」です。Technology、Planet、Humanity、Culture、Collaborationの五つのサブテーマを掲げ、各国や企業、団体が未来の課題や解決策を共有する場を目指します。
会場は、これらのテーマに沿った地区や展示を通じて、半年間の万博体験をつくります。そして閉幕後は、会場を都市の一部として使い続ける計画です。万博で生まれた交流や知識を、住宅、文化、娯楽、ビジネスの場へつなぐ。リヤドはイベントと都市開発を最初から一つの時間軸で描いている点に特徴があります。
ただし、15万人の居住者や1日6万人の来訪者は、公式サイトに掲載された計画上の数字です。完成後の実績ではありません。詳細な施設の配置や運営方式も今後具体化していくため、現時点では「発表された構想・目標」として紹介する必要があります。
ドバイ、大阪、リヤド——三つのモデルを比較
| 都市・計画 | 万博との関係 | 会期後の姿 | レガシーの考え方 |
| ドバイのGlobal Village | 1997年に始まった既存施設。Expo 2020とは別会場 | 文化や食、買い物、エンターテインメントを楽しめる季節型施設として継続 | 万博とは別に、長年の観光ブランドを育てる |
| Expo 2020 Dubai/Expo City Dubai | 2021~2022年に開催された万博会場 | インフラの約80%を保持し、Expo City Dubaiとして再活用 | 万博会場を都市機能へ転換する |
| 大阪・関西万博/夢洲 | 2025年に開催された万博会場 | 大屋根リングの一部を活用した記念公園や、民間開発などを組み合わせる | 象徴や理念を残しながら、段階的に跡地を活用する |
| Expo 2030 Riyadh/Global Village構想 | 2030~2031年に開催予定の万博会場 | 住宅、文化、娯楽、ビジネス機能を持つ都市拠点へ転換する計画 | 会期後の都市像を、万博会場の計画に組み込む |
万博レガシーに「正解」はあるのか
ドバイ、リヤド、大阪を比べると、万博会場の閉幕後には少なくとも三つの考え方があることが分かります。
1. 既存施設を育てる: ドバイのGlobal Villageのように、万博とは別に続いてきた国際文化施設を観光資源として発展させる。
2. 会場を都市に変える: Expo City Dubaiのように、万博のインフラや建物を残して都市機能へ転換する。
3. 象徴と新開発を組み合わせる: 夢洲のように、記念として残す場所を設けながら、区域全体は段階的に開発する。
4. 万博後の都市を先に描く: リヤドのGlobal Village構想のように、会場が閉幕後に何を担うかを最初からマスタープランに含める。
どのモデルが優れているかは、会場の立地、土地の広さ、交通、地域の人口や需要、運営主体によって変わります。会場の一部を残すこと自体が成功を保証するわけではありません。維持管理を担う人や組織、年間を通じた利用者、運営を支える収入が必要です。
だからこそ、万博レガシーは「何を残したか」だけでなく、「残したものが誰に使われ、地域にどう役立つか」で考えたいところです。パビリオンを移設する、リングの一部を公園として残す、インフラを都市に転用する、あるいは会場全体を新しい国際交流拠点にする。それぞれ違う方法でも、万博の経験を次の世代や地域の暮らしへつなげられる可能性があります。
万博のその先を見届ける
ドバイでは、万博前からGlobal Villageがあり、万博会場はExpo City Dubaiとして新しい役割を得ました。大阪・夢洲では、象徴の一部を記念として残しながら、国際観光拠点を含む次のまちづくりが進みます。リヤドは、会場をGlobal Villageという恒久的な都市に変える未来像を掲げています。
三つの場所に共通するのは、万博を半年間のイベントで終わらせず、何らかの形で都市に根づかせようとしていることです。違うのは、そのレガシーを「観光施設」「都市」「記念と再開発の組み合わせ」のどこに置くかです。
大阪・関西万博の夢洲が、これからどのような場所へ変わっていくのか。大屋根リングの保存、記念公園や記念館の計画、開発事業者の選定を追いながら、万博の理念が日常のまちにどう引き継がれるのかを見ていきたいと思います。
参考・出典
● Global Village Dubai 公式サイト(施設の概要、各国文化、食、買い物、エンターテインメント)
● Expo 2020 Dubai「Impact and legacy」(会場インフラ約80%を保持し、閉幕後6か月で再開したレガシー計画)
● Expo City Dubai 公式サイト「Expo 2020 legacy」
● Expo 2030 Riyadh「Expo Site」(敷地規模、Global Village構想、居住者・来訪者の計画)
● Expo 2030 Riyadh「About」(テーマ、サブテーマ、会場とレガシーの説明)
● 大阪府「夢洲第2期区域マスタープランVer.3.0の策定」
● 大阪市「万博レガシーを継承した夢洲第2期区域まちづくり事業」
※計画や数値は2026年10月時点で公表されている情報をもとに整理しています。リヤドの将来人口・来訪者数は計画上の目標であり、夢洲の施設計画も事業者選定などを経て今後具体化されます。



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