「最初は、木造建築が印象的なパビリオン。」
それが、私が大阪・関西万博のバーレーン館を訪れたときの第一印象でした。しかし、一歩館内に足を踏み入れ展示を読み解いていくと、そこには何千年も前から海を通じて世界とつながってきた深い歴史と、未来へ挑む現代国家の姿が広がっていました。
単に展示を見るだけでなく、「この国を自分の足で訪れてみたい」と思わせてくれる圧倒的なストーリーテリング。
本記事では、建築部門金賞に輝いた話題のパビリオン「バーレーン館」を軸に、その歴史、世界遺産、金融立国としての現在、そして国家指針『Bahrain Economic Vision 2030』が描く未来までを徹底解説します!
💡 この記事でわかること
- ペルシャ湾の島国バーレーンの基本情報と「海洋国家」の歴史
- リナ・ゴットメ氏×日本の伝統技術が融合した「建築部門金賞」の木造美
- ユネスコ世界遺産「真珠の道」と伝統のダウ船文化
- オイルマネーに依存しない「金融・FinTech立国」としての現在
- 国家戦略『Bahrain Economic Vision 2030』が描く未来
① はじめに|「海をつなぐ」パビリオンとの出会い
大阪・関西万博の広大な会場の中で、独特の温もりと風が抜ける存在感を放っていたバーレーン館。

多くのパビリオンがハイテクな映像技術を競い合う中、バーレーンが提示したのは「素材の力」と「5000年の海の歴史」でした。一見するとシンプルな木造構造。しかしそこには、ペルシャ湾を舞台に人と文化を結び続けてきた海洋王国の誇りが凝縮されていたのです。
② バーレーンってどんな国?|中東・ペルシャ湾に浮かぶ真珠の島国
パビリオンの魅力を深掘りする前に、まずは「バーレーン」という国の基本を押さえておきましょう。
- 正式名称:バーレーン王国(Kingdom of Bahrain)
- 地理:ペルシャ湾西部に位置する島国(サウジアラビアとは全長約25kmの「キング・ファハド・コーズウェイ」橋で接続)
- 面積:約780平方キロメートル(東京都23区とほぼ同等のコンパクトな国)
- 首都:マナーマ(Manama)
- 歴史と経済:古代ディルムン文明の時代から真珠採掘と海上交易で繁栄。現在はGCC(湾岸協力会議)諸国の中でもいち早く脱石油を進めた金融・IT・観光のハブ。

③ テーマ「Connecting Seas(海をつなぐ)」
バーレーン館が掲げたメインテーマ、それは「Connecting Seas(海をつなぐ)」です。

古代からバーレーンにとって、海は単なる水域ではなく「世界と自国を繋ぐハイウェイ」でした。
- 古代(5,000年前〜):伝統の木造船「ダウ船」でメソポタミアやインダス文明を結んだ海上交易
- 現代:海底光ファイバーケーブルや国際ネットワークで世界と繋がるデータハブ
「海が人・文化・交易・技術をつないできた」。パビリオン全体が、この一貫したテーマのもとに設計されています。
④ 木造建築が語る“海”|建築部門金賞を受賞した空間美



リナ・ゴットメ氏による設計と日本の木工技術
パビリオンを手掛けたのは、パリを拠点に世界で活躍する建築家リナ・ゴットメ(Lina Ghotmeh)氏。
この建築の最大の特徴は、バーレーンの伝統的な造船技術(ダウ船の船骨)と日本の伝統的な木構造技術の見事な融合です。建物を支える木材には日本の高品質な木材が使用され、クギや金具を極力使わないしなやかな構造が組まれています。

パッシブデザイン(自然換気)の工夫

建物内部に入ると、エアコンの風とは異なる「心地よい風」が通り抜けていくのを感じます。これは、バーレーンの伝統建築に見られる「風採り塔(バドジール)」の原理を取り入れた自然換気構造。
持続可能な建築としての評価も極めて高く、見事に万博建築部門で金賞(Gold Award)を受賞しました。
⑤ 世界遺産「真珠の道」とムハッラク
展示の核心部(メインテーマ)へと進みましょう。バーレーンを語る上で欠かせないのが「真珠」です。

ペルシャ湾の奇跡「天然真珠」
かつてバーレーン沖で採取される真珠は「世界で最も美しく最高品質」と称され、王侯貴族を魅了してきました。石油が発見される以前、真珠産業こそがこの国の経済と文化を支えるすべてだったのです。
ユネスコ世界遺産「真珠の道(Pearling Path)」

古都ムハッラク(Muharraq)には、真珠ダイバーたちの家、競り市が行われた市場、豪商の邸宅、そして海岸へと続く道筋が今も残されており、「真珠採掘関連遺産:島嶼経済の証拠」としてユネスコ世界文化遺産に登録されています。
展示を見ながら、「この歴史ある路地を、いつか自分の足で歩いてみたい」という強い強い衝動に駆られました。
⑥ ダウ船と広大な交易ネットワーク

展示エリアには、美しい曲線を描くダウ船の大型模型や海洋図が並びます。
かつてバーレーンの船乗りたちは、この木造船一隻で過酷なペルシャ湾やアラビア海へ乗り出していきました。
🌊 ダウ船が結んだネットワーク
- インド:香辛料や織物の交易
- オマーン・カタール・UAE:真珠と生活物資のやり取り
- 東アフリカ:木材や希少品の輸入
何百年も前から、バーレーンは異なる宗教や文化を持つ国々を「海」で結びつけるグローバルハブだったことが、展示を通じて鮮明に理解できます。
⑦ デーツと暮らし|厳しくも豊かな砂漠と海の生活文化

真珠と貿易に加え、人々の命を支えてきたのが「デーツ(ナツメヤシ)」です。
過酷な乾燥地帯でも力強く育つヤシの木は、果実が貴重な栄養源となるだけでなく、葉や幹は家屋の材料や生活道具として使われてきました。館内では、デーツシロップや伝統的な器など、アラビアの温かいおもてナシ文化の源流を感じることができます。

⑧ 金融立国・バーレーン|石油依存からの先駆的脱却
展示は過去の歴史から、一気に現代のバーレーンへとシフトします。

「中東の国=石油」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、バーレーンは湾岸諸国の中で最も早く石油の枯渇に直面し、最も早く経済の多角化に成功した国です。
- 中東の金融センター:1970年代からオフショアバンクを誘致し、中東随一の金融ハブへ
- イスラム金融のリーダー:宗教的規制に準拠した「イスラム金融」のグローバル拠点
- FinTech(金融×IT)の推進:政府主導でスタートアップを育成する「Bahrain FinTech Bay」を開設
「真珠(過去)→ 交易(歴史)→ 金融・FinTech(現在)」という洗練された展示の流れから、この国の生き残りをかけた知恵と柔軟性が伝わってきます。
⑨ バーレーンが描く未来|Bahrain Economic Vision 2030
ここからが、バーレーン館が真に伝えたかったメッセージです。
パビリオンの最後を締めくくるのは、バーレーンが掲げる国家長期指針『Bahrain Economic Vision 2030(バーレーン経済ビジョン2030)』の理念でした。
Vision 2030が掲げる3つの柱
- 持続可能性(Sustainability):脱炭素・環境配慮型の都市開発と再生可能エネルギー
- 競争力(Competitiveness):DX、FinTech、イノベーション主導型の経済構造
- 公平性(Fairness):人材育成、民間の活性化、高品質な教育と医療
バーレーン館は、単に過去の栄光を誇るための展示ではありませんでした。「5000年培ってきた『つなぐ力』を、未来のDXや持続可能な社会づくりにどう活かすか」という、未来への強い意思表示だったのです。
⑩ 万博から始まる「その国を知る旅」
正直に明かすと、私はまだバーレーンという国に足を運んだことはありません。
しかし、オマーン留学を経験し、中東の文化や人々の温かさに触れた私だからこそ、このバーレーン館の展示をときに胸が熱くなりました。
万博という場所は、ただパビリオンを見て楽しむだけのイベントではありません。
「これまで知らなかった国に興味を持ち、その国の歴史や人々に思いを馳せ、いつか訪れてみたくなる場所」。
オマーンで過ごした記憶と、バーレーン館が教えてくれた5000年の海のストーリーが重なり合い、私の「中東を知る旅」に新たな目的地が加わりました。
⑪ まとめ|バーレーン館が教えてくれたこと
| 項目 | バーレーン館のハイライト |
| 建築 | 金賞を受賞した木造構造(伝統の風採り×日本の木工技術) |
| 歴史 | ユネスコ世界遺産「真珠の道」とダウ船の交易ネットワーク |
| 現在 | 中東をリードする金融・FinTech・DX立国 |
| 未来 | 『Bahrain Economic Vision 2030』に基づく持続可能な国づくり |
東京23区ほどの小さな島国に詰まった、何千年の歴史と未来への挑戦。大阪・関西万博のバーレーン館は、訪れた人々の心に「海を越えたつながり」を残してくれる素晴らしい空間でした。
🇰🇼 次回予告|【クウェート館】Vision 2035が描く壮大な未来
「万博 × 中東 × 国家ビジョン」シリーズ
次回ご紹介するのは、砂漠のオアシスからハイテク国家へと変貌を遂げる「クウェート館」です。
国家指針『New Kuwait / Vision 2035』を掲げるクウェートが、大阪・関西万博で魅せる圧巻の建築美と未来都市のプレゼンテーションとは?ぜひ次回もお楽しみに!
📌 中東×万博×国家ビジョン シリーズ記事



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