2027年5月15日から8月15日まで、セルビアの首都ベオグラードで開催されるExpo 2027 Belgrade(ベオグラード万博)。
テーマは、
「Play for Humanity – Sport and Music for All」
(人類のための遊び―スポーツと音楽をすべての人へ)
です。
ベオグラード万博では、各国パビリオンのデザインや展示内容が少しずつ明らかになっています。
そのなかで、個人的にかなり注目しているのがドイツ館です。
2026年6月に初公開され、同年8月にはfacts and fictionから詳細が発表されたドイツ館のコンセプトが、「Germany! Out of the Box.」です。
一見すると「箱から飛び出そう」という遊び心のあるテーマ。
しかし、ドイツのこれまでの万博参加を追ってみると、このパビリオンがかなり興味深く見えてきます。
ドイツは2000年にExpo 2000 Hannover(ハノーバー万博)を開催した国です。
その後も、環境、都市、水、エネルギー、サーキュラーエコノミーなど、その時代の未来社会に関わるテーマを各万博で継続的に提示し、数多くのパビリオン賞を獲得してきました。
そして現在、ドイツ国内ではWorld Expo 2035を再びドイツへ招致しようとする複数の構想も動いています。
ベオグラード2027は、そんなドイツの万博史の「次の一章」として見ると、非常に面白いパビリオンです。
ベオグラード万博の会場全体については、こちらの記事でも詳しくまとめています。
関連記事:「【公式マップ公開】ベオグラード万博2027の会場はどうなる?マスタープラン・テーマ館・パビリオン構成を解説」
K-WayYes|ベオグラード万博2027会場マスタープラン
- ベオグラード万博ドイツ館「Germany! Out of the Box.」
- 外観も「箱から飛び出す」デザイン
- 館内は「Playground of Innovation」
- ドイツがベオグラードで見せたいもの
- 2025年大阪では「サーキュラーエコノミー」を徹底
- 大阪2025ドイツ館はBIE持続可能性賞
- 実はドイツ、万博パビリオンの受賞歴がすごい
- ドバイ2020「CAMPUS GERMANY」も金賞
- 原点の一つは「Expo 2000 Hannover」
- 25年以上前から「万博後」を考えていた
- 制作会社facts and fictionもハノーバー2000から
- そして2035年――ドイツにWorld Expoが戻る可能性も?
- ただし「ドイツ2035開催」が決まったわけではない
- ドイツ国内にはFrankfurtRheinMain構想も
- Berlin 2035が目指すのも「建てて壊す万博」ではない
- ハノーバー2000からベオグラード2027へ
- ベオグラードでは「正解」ではなく「遊び」から未来を探す
- 参考・出典
ベオグラード万博ドイツ館「Germany! Out of the Box.」
Expo 2027 Belgradeのドイツ館では、「遊び」を単なる娯楽ではなく、新しいアイデアやイノベーションを生み出す文化的な技術として捉えます。
自由に遊ぶことによって、
- 好奇心
- 実験
- 視点の変化
- 既存ルールへの問い
- 新しい解決策
が生まれる。
そこから、
Think outside the box
=既存の枠にとらわれず考える
という考え方を、ドイツ館そのものへ落とし込んだのが「Germany! Out of the Box.」です。
コンセプト・展示・デザインを担当するfacts and fictionは、遊びによって自由な発想を生み出し、既存のルールを問い直すことから新しい解決策が生まれるという考え方を示しています。
facts and fiction|Expo 2027ドイツ館公式発表
外観も「箱から飛び出す」デザイン
公開されたイメージでは、ベオグラード万博の大きなパビリオン構造の中で、赤・黄・黒のBOXが展示空間から外へ飛び出すように配置されています。
さらに、ドイツ連邦政府による調達資料では、ドイツ館はLargeカテゴリー、延床面積972㎡とされています。
展示スペースに加えて、
レストラン、ショップ、ラウンジ、場合によっては多目的・会議室、広報・文化、プロトコル、運営、スタッフ管理、技術部門、倉庫などのバックヤードも計画されています。
EU Public Procurement|ドイツ館実施業務資料
館内は「Playground of Innovation」
館内へ入ると、テーマはさらに明確になります。
展示空間は、
「Playground of Innovation
(イノベーションの遊び場)」
として構成されます。
特徴的なのが、建築の「BOX」をそのまま展示単位として使うこと。
それぞれのBOXには、
1つのイノベーション
+ 1つのテーマ
+ 1つのインタラクション
が設定されます。
コンテンツにはドイツ企業、スタートアップ、研究機関などが関わり、スポーツ・音楽・科学の分野からアンバサダーも参加する予定です。
来場者は説明を見るだけではなく、実際に遊びながらドイツの技術や発想を体験する展示になるとされています。
ドイツがベオグラードで見せたいもの
制作を担当するfacts and fictionは、今回のSpecialised Expoでは「ドイツ全般」を紹介するのではなく、スポーツと音楽というExpo 2027のテーマからドイツを捉え直すことが重要だと説明しています。
目指しているのは、技術大国としての堅いイメージだけではありません。
新しい視点へ踏み出す、現代的でダイナミックなドイツ。
そして、
開かれている
親しみやすい
遊び心がある
そんな国の姿を提示しようとしています。
ここが、大阪・関西万博のドイツ館からの変化としても興味深いところです。
2025年大阪では「サーキュラーエコノミー」を徹底
大阪・関西万博でのドイツ館を覚えている人も多いと思います。
名称は、
「わ!ドイツ(Wa! Germany)」
テーマは循環経済=サーキュラーエコノミーでした。
「わ」には、
輪=循環
和=調和
わ!=驚き
という3つの意味が込められていました。
そして、単に館内でサーキュラーエコノミーを説明するのではなく、建築・ランドスケープ・展示そのものを循環型にするという考え方が採用されました。(エクスポ2025)
大阪万博を歩いた人にとっては、ドイツ館の「サーキュラー」という言葉が強く印象に残っているのではないでしょうか。

大阪2025ドイツ館はBIE持続可能性賞
その評価は非常に高く、BIE(博覧会国際事務局)のOfficial Participant Awardsでは、
テーマ展開部門:銀賞
Sustainability Award:受賞
という結果になりました。
BIEのドイツ参加記録にも、この2つの受賞が正式に掲載されています。(国際博覧会事務局)
さらに2026年には、Art Directors Club CompetitionのSpatial Experience部門Grand Prixを獲得。
facts and fictionによれば、ドイツ館単独ですでに20以上の賞を獲得しており、ADCではドイツ館に対して合計7本の「Nail」が授与されています。
facts and fiction|Expo 2027 Germany / Austria発表
つまりベオグラードのドイツ館は、大阪2025で高く評価された制作チームが、その経験を次のExpoへつなぐプロジェクトでもあるわけです。
実はドイツ、万博パビリオンの受賞歴がすごい
ここでドイツの近年の万博参加を振り返ってみると、かなり驚きます。
BIE公式のドイツ参加記録では、次の受賞歴が確認できます。(国際博覧会事務局)
| 万博 | ドイツ館テーマ | BIE公式褒賞 |
| 愛知2005 | Bionis | コンテンツ部門 金賞 |
| サラゴサ2008 | A Journey on Futuristic Rafts | テーマ部門 金賞 |
| 上海2010 | Balancity – A City in Balance | テーマ展開 金賞 |
| 麗水2012 | Seavolution | テーマ展開 金賞 |
| ミラノ2015 | Fields of Ideas | テーマ展開 金賞 |
| アスタナ2017 | Energy on Track | テーマ展開 金賞 |
| ドバイ2020 | CAMPUS GERMANY | テーマ解釈 金賞 |
| 大阪2025 | Wa! Germany | テーマ展開 銀賞+Sustainability Award |
つまり、ここに挙げた愛知2005からドバイ2020までの7回すべてで金賞。
そして大阪2025でも銀賞+持続可能性賞です。
ドイツは「毎回派手な建物をつくる国」というより、
Expo全体のテーマを理解し、それをドイツ独自のストーリーへ翻訳するのが非常に上手い国
と言った方が近いのかもしれません。
ドバイ2020「CAMPUS GERMANY」も金賞
Expo 2020 Dubaiでは、ドイツ館はSustainability Districtに出展しました。
パビリオン名は、
CAMPUS GERMANY
来場者自身がキャンパスの「学生」のようになり、
Energy Lab
Future City Lab
Biodiversity Lab
などを巡りながら、ドイツの持続可能な未来を体験する構成でした。
BIEでは、大型パビリオンのTheme Interpretation金賞を受賞しています。(国際博覧会事務局)
この「説明を見る」のではなく、来場者自身が参加するという考え方は、ベオグラード2027の「Playground of Innovation」にもつながっているように感じます。
原点の一つは「Expo 2000 Hannover」
さらに遡ると、ドイツと万博の関係で外せないのがExpo 2000 Hannover(ハノーバー万博)です。
これはドイツで初めて開催されたWorld Expoでした。
テーマは、
「Humankind – Nature – Technology
(人間・自然・技術)」
会期は2000年6月1日〜10月31日。
会場面積は約160ha、174の参加者が集まり、約1,810万人が訪れました。(国際博覧会事務局 (BIE))
重要なのは、開催年だけではありません。
BIEによれば、ハノーバー万博は1992年の地球サミットで生まれたAgenda 21の理念を反映したWorld Expoでもありました。
「技術が進歩すれば未来は良くなる」という単純な未来像ではなく、
人間
× 自然
× 技術
のバランスをどう取るのか。
国だけでなく、科学、文化、政治、ビジネス、市民社会、NGOなども参加しながら、未来社会のあり方を考えるExpoでした。(国際博覧会事務局 (BIE))
25年以上前から「万博後」を考えていた
ハノーバー2000で興味深いのが、会期終了後の利用まで考えて会場を整備していたことです。
160haの会場のうち約90haは既存のHannover Messeを活用。
その他のエリアは、低エネルギー住宅やパッシブ建築を取り入れたKronsberg(クロンスベルク)環境地区の形成につながりました。(国際博覧会事務局 (BIE))
また、参加国のパビリオンにも持続可能な建築が登場しています。
スイス館ではピーター・ズントーによる木材建築。
日本館では、坂茂による再生紙を利用した紙管建築が採用されました。(国際博覧会事務局 (BIE))
大阪2025の「サーキュラーエコノミー」を見た後にハノーバー2000を振り返ると、ドイツが突然、循環型社会を語り始めたわけではないことが分かります。
Hannover 2000
↓
環境・都市・水・海洋・食・エネルギーを扱う各Expo
↓
Dubai 2020 Sustainability
↓
Osaka 2025 Circular Economy
という長い流れとして見ることができます。
制作会社facts and fictionもハノーバー2000から
もう一つ面白いつながりがあります。
ベオグラード2027のドイツ館を担当するfacts and fictionのExpo歴も、実はハノーバー2000から始まっています。
同社によれば、最初のExpoプロジェクトは、Expo 2000 Hannoverにおけるドイツ化学工業協会(VCI)のパビリオンでした。
その後、
麗水2012 ドイツ館
↓
ドバイ2020 ドイツ館
↓
大阪2025 ドイツ館
↓
ベオグラード2027 ドイツ館
へと経験を積み重ねています。
ベオグラードでは、
ドイツ連邦経済・エネルギー省(BMWE):国家参加
Messe Düsseldorf:運営・全体実施
facts and fiction:コンセプト、内外装デザイン、展示
SDE – Studio for Designed Environments:建築
Laumann / Scheßl / Weismüller:建設関連サポート
78degrees:レストラン・ショップ
という体制で準備が進められています。
Messe Düsseldorf|Expo 2027ドイツ館実施体制
大阪からベオグラード、そしてリヤドへと企業や人材、ノウハウが移っていく流れについては、こちらの記事でも整理しています。
関連記事:「大阪・関西万博のレガシーはベオグラードへ、そしてリヤドへ|次の万博はどうつながる?」
K-WayYes|大阪・ベオグラード・リヤドの万博レガシー
そして2035年――ドイツにWorld Expoが戻る可能性も?
ここからは、さらに先の話です。
現在ドイツでは、World Expo 2035の開催を目指す複数の構想が動いています。
特に注目されているのがBerlin-Brandenburg(ベルリン・ブランデンブルク)です。
2026年6月には、ベルリンのカイ・ウェグナー市長とブランデンブルク州のディートマー・ヴォイトケ首相が、World Expo 2035への共同応募の可能性について検討を進め、2026年10月までに条件・機会・リスク・費用などを含む共同の判断材料をまとめる方針が報じられました。(タゲスシュピーゲル)
一方で、民間の準備組織EXPO 2035 Berlin GmbHも存在し、政治、経済、科学、文化、市民社会などをつなぎながら招致構想を進めています。
同組織は、巨大な一つの会場だけに閉じるのではなく、都市のさまざまな場所を活用するマルチセントリックなExpoを構想しています。(EXPO 2035 Berlin)
ただし「ドイツ2035開催」が決まったわけではない
ここは重要なポイントです。
2026年8月30日時点で、ドイツ政府がBIEへWorld Expo 2035の正式立候補を提出したわけではありません。
BIEの規則では、World Expoを開催したい国は、国政府がBIEへ正式な立候補書簡を提出する必要があります。
World Expoの場合、立候補できるのは予定開幕日の6〜9年前です。(万国博覧会局)
したがって現時点では、
「ベルリン・ブランデンブルクを中心に2035年のWorld Expo開催を目指す構想・検討が進んでいる」
という表現が正確です。
ドイツ国内にはFrankfurtRheinMain構想も
さらに興味深いことに、ドイツ国内で2035年構想はベルリンだけではありません。
FrankfurtRheinMainでは、
「OPEN EXPO35」
という構想が進められています。
この計画でも、単に大規模な新会場を建設するのではなく、既存建築や都市インフラを使いながら、2035年まで地域を変えていくという考え方が示されています。
現行のロードマップでは、
2026年 戦略策定・パートナー形成
2027年 プログラムオフィス始動
2028年 複数のパイロットプロジェクト開始
2029年 支援確保・立候補を目指す
2030〜2034年 プロジェクト実装
2035年 World Expo開催を目指す
という流れが示されています。(THE NEW FRANKFURT)
OPEN EXPO35 FrankfurtRheinMain
つまり現段階では、ドイツ国内でも候補地域が一本化されているわけではありません。
この動き自体が、今後のWorld Expo 2035招致レースを見るうえで興味深いポイントになりそうです。
Berlin 2035が目指すのも「建てて壊す万博」ではない
EXPO 2035 Berlinの民間構想で興味深いのは、巨大な一つのExpo会場ですべてを完結させるのではなく、既存の都市、企業、研究機関、文化施設などをExpoへつなげるという発想です。(EXPO 2035 Berlin)
新しい建物を大量につくることより、
既存資産を使う
↓
都市を変える
↓
Expo後にも残す
という考え方です。
ここでも、ハノーバー2000や大阪2025の「循環」「レガシー」という考え方とつながって見えます。
なお、ベルリン・ブランデンブルク両政府は2026年7月14日、2035年を見据えた共同イノベーション戦略「InnoBB 2035」を正式に決定しました。
重点分野には、
デジタル技術・Creative Tech
Intelligent Energy Systems
Innovative Mobility
Health & Participation
Sustainable Production & Materials
などが設定されています。(Berlin.de)
これはExpo 2035招致そのものとは別の政策です。
ただし、2035年へ向けて首都圏全体のイノベーション戦略が動いているという点では、Expo構想とあわせて注目しておきたい動きです。
World Expo 2035全体の候補や今後の招致レースについては、こちらでも詳しく整理しています。
関連記事:「リヤドの次の万博はどこ?大阪・関西万博の受賞国と招致の歴史から『Expo 2035』を読み解く」
K-WayYes|World Expo 2035候補を考察
ハノーバー2000からベオグラード2027へ
ここまでドイツの万博参加を追ってみると、一つの特徴が見えてきます。
Hannover 2000
人間 × 自然 × 技術
↓
愛知2005〜アスタナ2017
自然、都市、水、海洋、食、エネルギー
↓
Dubai 2020
Sustainability
↓
Osaka 2025
Circular Economy
↓
Belgrade 2027
Play × Innovation
テーマそのものは毎回変わっています。
しかし一貫しているのは、
「未来の問題を、来場者自身が参加しながら考える場所としてパビリオンを使う」
という姿勢ではないでしょうか。
ベオグラードでは「正解」ではなく「遊び」から未来を探す
大阪2025のドイツ館は、循環型社会という比較的明確な方向性を提示しました。
しかし、ベオグラード2027では少し違います。
テーマは、
Germany! Out of the Box.
既存の正解を教えるのではなく、
遊ぶ
↓
試す
↓
失敗する
↓
視点を変える
↓
新しいアイデアを生み出す
というプロセスそのものを展示しようとしています。
ハノーバー2000から約27年。
自国開催の万博で「人間・自然・技術のバランス」を問い、大阪ではサーキュラーエコノミーを提示したドイツが、ベオグラードでは、
「未来をつくるには、まず既存の箱から飛び出してみよう」
と語りかける。
そして、その先では再びWorld Expoをドイツへ呼ぼうという2035年構想も動き始めています。
そう考えると、ベオグラードのドイツ館は単なる一つのパビリオンではなく、
Hannover 2000
↓
Dubai 2020
↓
Osaka 2025
↓
Belgrade 2027
↓
2035?
と続く、ドイツの万博史の途中にある展示として見ることができます。
Expo 2027 Belgradeで、個人的にも特に実物を見てみたいパビリオンの一つです。
参考・出典
Bureau International des Expositions(BIE)
Germany – Expo participation & awards
Expo 2000 Hannover
How is an Expo Organised?
Expo 2027 Belgrade
Federal Ministry for Economic Affairs and Energy(Germany)
Messe Düsseldorf
facts and fiction
「Germany! Out of the Box.」German Pavilion Expo 2027 Belgrade
EU Public Procurement / German participation in Expo 2027 Belgrade
Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan
German Pavilion「Wa! Germany」
EXPO 2035 Berlin GmbH
Berlin-Brandenburg / InnoBB 2035
OPEN EXPO35 FrankfurtRheinMain
※本記事は2026年8月31日時点で、BIE、ドイツ連邦政府関連資料、Messe Düsseldorf、facts and fiction、Expo 2027 Belgrade、EXPO 2035 Berlin、Berlin-Brandenburg等が公開している情報をもとに整理しています。
Expo 2027 Belgradeのパビリオン設計・展示内容、およびWorld Expo 2035の招致状況は、今後変更される可能性があります。



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